2020年の収穫増補版③兼本浩祐『発達障害の内側から見た世界』(講談社選書メチエ)


「講談社選書メチエ=レポートの参考文献」というイメージがあるのは私だけではないはず。この『発達障害の内側から見た世界』はレポートがなくても読みたい一冊です。
精神科医である著者が自分自身も発達障害を持っていることに気づくところから本書は始まります。カミングアウトした時の相手の反応を見ていると、自分の多様な面が抜け落ちて、障害だけが前景化されている。そのことへの違和感から、人間の認識のメカニズムへの考察が始まります。
カントやベルクソンなどの西洋哲学の認識論を援用しながらも、例えが茹で卵や出川哲朗だったりと、いろんな意味で面白い読み物です。
「突き詰めれば誰一人多数者はいない、誰もが実は少数者なのだ」という著者。少数者として生きていると思っている人も、そうでない人も、みんなが自分に通じるものをこの本の中に見つけられるはず。