2020年の収穫増補版①ハワード・ノーマン『ノーザン・ライツ』(川野太郎訳)


1987年刊行の作品の初翻訳。1950年代末、カナダ北部、村に一軒だけの家に住む少年が、原住民や北欧移民が暮らす別の村と行き来しつつ成長していく物語です。長年カナダの原住民の研究を行なっていた作者によるこの作品は、ささやかな部分にも、彼らの文化への深い敬意がうかがえ、読んでいると彼らの生き方に魅了されます。


また、情報の少ない場所で暮らす人々のラジオへの熱い想いや、特に偶然手に入れたカタログを主人公に渡す友人の「ゆっくり読んで。おれはもう暗記したから」という言葉にも、なんだか羨ましくなりました。今年は外出が制限されたこともあり情報過多になった中で、この小説の主人公たちの情報への接し方がとても幸福なものに映りました。


本好きな中学生や高校生の子へのプレゼントにもお勧めです。私自身がこの本を10代の時に読みたかった!!!環境が変わったり、人との距離に悩んだり、孤独を感じたり。そんな主人公たちと、彼らの多感な気持ちを暖かく受け止めてくれる大人たち。沢山の人がこの本に出会えますように。


若き訳者による柔らかくみずみずしい訳文も、主人公の気持ちを衒いなく表していて素敵です。