数人で読む外国文学2020⑨福永信さん

選書テーマ【おすすめの5冊】

福永信/小説家。1998年「読み終えて」で第一回ストリートノベル大賞受賞。また、2012年『ーーーーー』で第25回三島由紀夫賞候補、2013年『三姉妹とその友達』で第35回野間文芸新人賞候補となり、2015年には第5回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞を受賞。編集作品に『小説の家』(新潮社)。


福永さんはジュンク堂で何回も選書フェアに参加してくださったのですが、そのたびに読者がびっくりするような面白いしかけを、常に用意してくださいました。今回のおすすめの5冊も、ただの外国文学ではなく、くすりと笑えるもの、明日が楽しみになるようなものを選んで頂いたと思います。自粛期間中に家にひとりでいると、テレビを見ていて、自分の笑い声にびっくりしてしまうことがよくありましたが、笑いたくなったとき、誰かに会いたくなったとき、次は福永さんの選書を手にとって、心から笑ってみるつもりです。(ジュンク堂書店福岡店担当者)

トーン・テレヘン『リスからアリへの手紙』 柳瀬尚紀訳(河出書房新社)
≪オシャレな書簡体小説! (文字どおり)≫
リスや象やアリが、手紙を書きまくる! そして手紙は外套を着て帽子をかぶり、玄関を開け、外へ出る。手紙を届けるためだ。ちょっと待って。手紙が外套を着るだって? 読者は目を疑うが、なぜ着るか、作者は説明する。「寒いからです」。作者は決して全部を書かない。読者のために余白を残す。自力でこの世界を訪ねてほしいから。(福永)

エトガル・ケレット『銀河の果ての落とし穴』(河出書房新社)
≪世界文学のチャップリン!≫ 
エトガル・ケレットの笑いと涙。自分のために話を書いてくれという友人、天使、双子、A、クレーマー、そして細胞まで。いや、もっと出てくる。登場人物達の豊かさにかけて、著者の右に出る者はいない。読者は1人で読む。作者も1人でこの本を書いた。1人と1人が(持ち味を出しあって)向き合う。2人の間に宇宙が生まれる。著者の本を読むとそんなことを思う。(福永)

ジョン・リウォルド『印象派の歴史』上下 三浦篤/坂上桂子訳(角川文庫)
≪19世紀パリのトキワ荘!≫
 印象派の面々の青春時代。印象派の歴史を書いた重要な文献でありながら、生き生きと画家達を描いた青春文学でもある。いやあ面白い。第1回印象派展を開催するために奔走する彼らの様子から「解散」までを描く下巻、これから読むと入りやすい。まだ若いメンバー達の、貧乏や観客からの誹謗中傷に、著者が未来からの励ましを思わず書き付ける箇所も。
(福永)

『月を見つけたチャウラ ピランデッロ短編集』ピランデッロ 訳・関口栄子(光文社新訳文庫)
≪イグ・ノーベル賞もあげたい!≫
読者を選ぶ15編の短編小説。100年以上前の短編群だが新しい。傑作長編『生きていたパスカル』以前の初期短編から死の年の作まで、膨大な短編から選ばれた15編。「登場人物の悲劇」は、小説の登場人物達が作者のところに「面接」に来る話だが、今こそリアルかも。フィレーノ博士なる人物の著作は「距離を置くという哲学」とされるが、中途半端な存在で笑える。(福永)

トルストイ『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』望月哲男訳(光文社新訳文庫)
≪世界文学のトップアスリート!≫
その逞しい想像力。トルストイよ、こんなに面白かったのか!と驚いたのが、この1冊。イワンが不安へと向かって突き進む、せかせかした足取り、それは読者を「泣かせる」とか「悲しませる」を飛び越えて、死のその先へと着地させてしまう。笑えてしまうのだ。後者は、殺人を巡る語り方のパス回しが読者の心に奇妙なスペースを作る。共に大傑作。(福永)