数人で読む外国文学2020⑥行舟文化さん

選書テーマ【行舟文化お勧めの中国文学4選】
【ちょっと異質な「ミステリー」3選】

行舟文化/翻訳者であり、作家である張舟さん夫妻が運営されている、翻訳ミステリーに特化した出版社。最初、福岡でなぜまだこんなどこにも知られていないミステリーが、、とびっくりしました。今回、張舟さんに【行舟文化お勧めの中国文学4選】を、白樺香澄さんに【ちょっと異質な「ミステリー」3選】を選んで頂きました。選書コメントもものすごく格好良いです。行舟文化さんがこの地にあること、最新の翻訳文化を発信して下さることは、福岡の誇りだと思っています。(ジュンク堂書店福岡店担当者)

余華『世事は煙の如し』飯塚容訳(岩波書店)
著者が純文学の探索と実験を繰り返した時期の作品で、好評も悪評もあり、殆どの純文学と同様に大衆の興味をそそりにくいものだが、余華という作家のすごみを、この作品を読んだ後に代表作とされている『活きる』『血を売る男』を読む場合しか真に理解できない。それは恐るべき「自己打破」。しかも、一回のみではなかった。(行舟文化・張舟)

 余華『血を売る男』飯塚容訳(河出書房新社)
「どう表現する?」という文学的問題を巡って長年探索した後の集大成作。人性、純文学の技巧、意外性……どの要素を求めても満足されるが、大ヒットの前作『活きる』みたいなものを読みたい人だけが落ち込む。『活きる』の欠片もなく、「作家余華」の影すら見られない本作は、著者の恐るべき「自己打破」を雄弁に語っている。(行舟文化・張舟)

劉慈欣『三体』大森望訳(早川書房)
ハードSFとしての「ミソ」が、爆発的な情報量と意表を突く壮大な構想の連発にある。それは著者の強みでもある。『三体』は宇宙の未来を想像する小説より、地球の現実を暴き出す小説に近い。現実諸々にロマンチックなSF舞台を構築した本書はまるでSFリアリズム小説のようで、マジックリアリズム並みの重大な意味を持つと考えている。(行舟文化・張舟)

紫金陳『知能犯之罠』阿井幸作訳(行舟文化)
中国官界でしか成立しない「殺人トリック」、批判的リアリズムの筆致で描写された官僚群像、それに対照するロマン主義的な殺人鬼の造形。中国ミステリーでそれを書けたのが本作のみと言えよう。人々の琴線に触れるストーリー展開に加え、謀殺計画とその遂行をスリリングに描いたことで読者に痛快感を与える作品である。(行舟文化・張舟)

雷鈞『黄』稲村文吾訳(文藝春秋)
盲目の青年を探偵役に、実際の未解決事件をモデルにした「児童眼球摘出事件」の謎を追うミステリ。伏線を張り巡らせた大仕掛けは、単にミステリとしてのサプライズに終わらず私たちの「先入観」、視線の埒外に置いてしまっているものを炙り出す、強いメッセージとしても機能する。ある青年の成長譚としても胸打つ作品。(行舟文化・張舟)

ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』倉坂鬼一郎訳(東京創元社)
乱歩が奇妙な味の傑作として絶賛したという表題作「銀の仮面」は、今なら約1世紀前に書かれた映画『パラサイト』の変奏曲と読む人もいるかも。同作と対になるような「トーランド家の長老」を始め、生活に侵入する「異物」の怖さを淡々とした筆致で描いた作品ばかりの、なんとも居心地悪くしかし面白い短編集。(行舟文化・白樺香澄)

ユニティ・ダウ『隠された悲鳴』三辺律子訳(英治出版)
実際の事件を基に、ボツワナの現職閣僚が執筆したアフリカ発サスペンス。呪術的な力を得るための「儀礼殺人」という主題はエキゾチックに思えるが、それを通じて描かれるのは「価値観の世代間格差」、旧弊な「伝統」から逃れられない社会の歪みという、どの国でも直面している問題意識だ。エンタメとしても一級。(行舟文化・白樺香澄)

トニー・パーカー『殺人者たちの午後』沢木耕太郎訳(新潮社・出版社品切れ)
殺人罪で収監され、仮釈放となった終身刑受刑者にインタビューしたルポルタージュ。彼らが人を殺すまでの人生、そして現在について話す語り口はどれも独特で、時にその「無自覚な」狂気に肝を冷やすことになり、時に運命や人の残酷さに打ちひしがれるだろう。「罪」とは?「償い」とは?内省にも似たそんな問いが木霊する。(行舟文化・白樺香澄)

行舟文化HP:https://www.gyoshu.co.jp