数人で読む外国文学2020①野村玲央さん

選書テーマ【指差せないものについて書かれた文章】
常に揺らぎ、形を変え、ぼやけ、見ようとすると霧散してしまう何か、

しかし非常に重要な何かについて書かれた作品たちです。

野村玲央/1993年生。音楽や映画、ノンフィクション等幅広く活躍するライター。福岡・本のあるところajiro元スタッフ。

野村さんは軽快に話している言葉と、落ち着いた書き言葉が全く違うようでいて、実はある部分でものすごく密接に繋がっているのです。すごく面白い人だなぁという印象を受けました。それは、この選書に、如実に表れている気がします。野村さんの、何かを見極めようとする姿勢を見ていると、背筋が伸びます。新しい本を手に取る時、野村さんみたいに読めたらな、と心から思います。(文:ジュンク堂書店福岡店担当)

ポール・ヴァレリー『ムッシュー・テスト』清水徹訳(岩波文庫)
世に存在する興味深いアイディアはどれも、放っておけば数分、数時間で消える“異常な”思いつきだ。人間はそれを記録し、明日のために保存しておこうとする。そのように考えるヴァレリーのもとに、“異常な”もう一人の自分が現れる────メタフィジカルな文学としても、非常にワイルドな創作論としても読める怪作。(野村)

レベッカ・ソルニット『迷うことについて』東辻賢治訳(左右社)
去年刊行ながら、オールタイムでもベストの一冊。『説教したがる男たち』などでアクティヴィストとして有名な彼女だが、非常に洗練された人文的エッセーこそが本懐だ。肌に残った下着の痕、古い世界の写真、私たちと遠景を隔てるあの青い光……美しいと同時にどこか幽霊的なモチーフをくぐり抜けてゆく自伝的作品。(野村)

イルマ・ラクーザ『ラングザマー 世界文学で辿る旅』山口裕之訳(共和国)
ラクーザは加速する世界に抗し、減速すること・停止すること・眠ることなどをテーマに様々なテクストをより合わせてゆく。いわば世界の再生速度を落とし、ピッチを落とし、スクリューをかける。その先の景色は今とても重要である。(野村)

ジェラール・マセ『記憶は闇の中での狩りを好む』桑田光平訳(水声社)
写真は現像する際、暗闇の中で像を焼き付ける、光が入るとその像は失われてしまう。マセはそのあり方を、朝がくると失われる夢のようだという。暗闇、写真、イメージ、そして記憶を巡る詩の断章たち。(野村)

サミュエル・ベケット『名づけられないもの』宇野邦一訳(河出書房新社)
三部作の最後にして最高傑作。三部作といっても、この作品から読んでも全く問題ない。前後の繋がりや設定などに意味はなく、ただ何かが動いていく感覚だけがある。生命の奇妙な輝き、おかしみ、不思議な明るさがページを横切っていく。(野村)